研究TOPICS  - 顔 - 生命理工学研究科より

Vol.6 持田 啓佑 さん 

生体システム専攻 / 中戸川研究室(2015年度博士2年)

2015年6月、持田啓佑さん、中戸川准教授らの論文「Receptor-mediated selective autophagy degrades the endoplasmic reticulum and the nucleus」がNatureに掲載されました。

NatureWEBサイト:掲載された論文のページへ

Nature誌に掲載された研究を始めたきっかけ

持田 啓佑さん私は現在中戸川研究室で、細胞内の自己分解システムであるオートファジーに関する研究を行っています。オートファジーは、膜動態を伴う特殊なプロセスにより、他の経路では分解の困難な大きな構造体をも分解できること、そして時にそれらを狙って選択的に分解することが知られています。私は、この選択的なオートファジーがどのような細胞内成分を標的とするのか、そしてどうやって分解対象を特異的に認識しているのか、について興味を持ち、出芽酵母をモデル生物として研究を開始しました。

最初の1年間取り組んだ研究テーマは思うような結果が出ず、行き詰ったため、別のテーマを考えることとなりました。検討の末、私は小胞体というオルガネラに注目しました。小胞体は、タンパク質や脂質の合成など、非常に重要な細胞機能を担います。過去の報告で、小胞体の一部がオートファジーで積極的に分解されることが示唆されていましたが、そのメカニズムは長らく明らかにされていませんでした。小胞体上に、オートファジーによる分解の目印となるような因子が存在するはずだと考え、その探索を行いました。

研究内容図

論文掲載に至るまでの経緯

解析の結果、Atg39とAtg40という小胞体膜に局在する2つのタンパク質が目印となり、小胞体の一部をオートファジーによる分解へと導くことが明らかになりました。またAtg39とAtg40がそれぞれ異なる小胞体領域の分解を担うという、当初の想定を超える興味深い発見もありました。さらに、小胞体の分解に関わる因子として同定したAtg39は、実は小胞体とともに、核の一部も同時に分解することが明らかとなりました。非常に驚いたことを覚えています。

また同時期に、ドイツのIvan Dikic博士のグループがヒトで、小胞体のオートファジーの目印となるタンパク質を同定し、小胞体の選択的なオートファジーがヒトまで保存された現象であることが分かりました。Ivan Dikic博士から、一緒にNature誌に投稿しないかと連絡があり、Natureに投稿することになりました。トップジャーナルなので、レフリーからどんな厳しい要求をされるのかと恐れていましたが、返ってきたコメントに無茶な要求はほとんど無く、安堵しました。大筋の内容はこのままでもNatureに載せてもらえそうだと分かり、非常に嬉しかったです。追加の実験を行い、投稿から約5か月後にアクセプトされました。

将来のビジョンについて

小胞体や核の選択的オートファジーは、現象としてはこれまでに報告があったものの、鍵となる因子が明らかにされていなかったため、その詳細な分子機構や生理的役割に関する解析がほとんど進んでいませんでした。今回同定した2つの目印タンパク質の発見を突破口として、今後小胞体や核の選択的オートファジーの全体像に迫る研究が出来ればと考えています。またこの研究を通して、面白い生命現象は時に自分の想像を超えたものであること、そしてそれを見逃さずに受け入れられる、常識にとらわれない発想の重要性を強く実感しました。こうした柔軟な発想力を持った人間を目指しながら、研究に励んでいきたいと思います。


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