研究紹介

私達の研究室では、動物生理学の様々な疑問に対してゲノムデータや遺伝子発現の解析から独自の仮説を考え、電気生理学、分子細胞生物学、生化学、免疫組織化学的などの手法により実験的な証明を試みています。現在は特に魚類の淡水・海水適応を担う様々な膜輸送体(Slc4, Slc9, Slc12, Slc26, Slc41, Cnnm, AQPなど)の解析を行い、正常腎機能の共通性や多様性を担う上皮細胞のメカニズム、ゲノム進化、熱力学などを明らかにしたいと考えています。

1. 海水魚腎臓の Mg2+, Ca2+, SO42-排出を担う膜輸送体

海水魚は体液の約3倍の浸透圧を持つ海水で生息するため、常に環境に水を奪われ体内に塩分が侵入します。海水魚は体液浸透圧の恒常性を維持するために海水を積極的に飲み、塩分と水分を腸から吸収し、エラや腎臓、腸から余剰の塩分を排出することで体液浸透圧の上昇を防いでいます(図1)。海水にはNa+, Cl- のほか様々なイオンが含まれますが、Na+, Cl-, K+はエラから,Mg2+, SO42-, Ca2+などは腎臓と腸から排出することが知られています。私たちは海水魚でゲノム解読が完了しているトラフグの近縁種で淡水・海水のどちらの環境でも生息できるメフグに着目し、淡水と海水でそれぞれ飼育したメフグの腎臓における遺伝子発現解析を行いました。その結果、海水飼育時にはCl--SO42-交換輸送体(Slc26a6)、Na+-Ca2+交換輸送体(Slc8a2)、Mg2+輸送体(Slc41a1, Cnnm3)の発現が上昇し、一方淡水飼育時にはNa+-Cl- 共輸送体(Slc12a3)、Mg2+輸送体(Cnnm2)の発現が上昇する事を見出しました。今後これらの活性や局在、ホルモンによる制御を解析し、海水魚腎臓における2価イオン排出機構の全貌解明を目指しています。ヒトMg2+輸送体の活性解析法の開発も同時に進めています。


図1

2. 淡水魚の塩分吸収、水排出を担う膜輸送体

淡水魚は塩濃度が体液の1/100以下の環境に生息するため、常に環境から体内に水が浸入します。そこで淡水魚は体液の恒常性を維持するために、体液の約1/10まで塩分を希釈した低張尿を排出することで収支として水を排出し、同時に塩分の喪失を補うために淡水中の僅かな塩分をエラから吸収します(図2)。淡水魚腎臓による低張尿の産生には遠位尿細管や集合管の原尿側細胞膜に発現するNa+-K+-Cl-共輸送体(Slc12a1)とNa+-Cl-共輸送体(Slc12a3)の活性が重要な役割を担うことが予想されており、それらの活性やホルモンによる制御などを解析し、淡水魚腎臓における水排出機構を明らかにしたいと考えています。一方、淡水魚エラではNa+-H+交換輸送活性とNa+-NH4+交換輸送活性を併せ持つNhe3 (Slc9a3) が塩類細胞(ionocyte)の淡水側細胞膜に発現し、淡水から濃度勾配に逆らったNa+吸収を実現していると考えられています。私たちはゼブラフィッシュNhe3のin vitroにおける高感度な活性測定系を得ており、Na+吸収活性の強化に必要な因子の同定を試みています。


図2

3. 新規 H+-Cl- 共輸送体の同定

ショウジョウバエの高塩濃度耐性に着目した共同研究に参加し、Slc9b1が強力なH+-Cl- 共輸送活性を有する事を初めて見出しました。これまでSlc9ファミリーは陽イオン交換輸送体ファミリーとして広く認識されてきました。Slc9ファミリーによる陰イオン(Cl-)輸送活性の発見により新たな生理機能が解明されることが期待されます。


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