研究紹介

研究室集合写真
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ペプチド工学に基づいた機能性ペプチドの創製

 私たちの研究室では、アミノ酸の並び方を工夫して、らせん状のα-ヘリックス構造やジグザグ構造のβ-シートなどの特徴的な構造をもち、さまざまな機能を発揮するペプチドを設計しています。これまでに、「水と混じることでゲルをつくって細胞が増殖・成長するのに適した環境をつくる自己組織化ペプチド(細胞足場材料)」、「がん細胞を見分けて細胞の中に入り薬物を運ぶ細胞膜透過性ペプチド(ドラッグデリバリー)」、「遺伝子工学の手法と有機化学の手法を組み合わせてつくる糖ペプチドライブラリを利用したレクチンタンパク質結合リガンドの探索とレクチン検出プローブ」といったさまざまな機能をもったペプチドの開発に取り組んでいます。

1.自己組織化ペプチドの創製とナノ・バイオマテリアルへの応用

 静電相互作用や疎水性相互作用などの相互作用を利用すると、水中で自発的に規則正しく集合してさまざまな構造体を組み上げるペプチドを設計することができます。これまでに水中でβ-シート構造をとって自己組織化し、ナノメートルサイズの繊維(ナノファイバー)へと集合化するペプチドE1Y9を設計しています(図1)。
E1Y9はカルシウムイオン(Ca2+)と相互作用することでナノファイバーが絡み合ったネットワーク構造が安定化し、水分子をトラップすることで「ゲル(ジェル)」になるという面白い特性を発揮します。
このようなゲルは細胞が増殖・成長するために必要な環境を提供することができ、体外で細胞を培養するのに適した材料として再生医療などへの応用が考えられます。例えば、細いヒモ状に成形したペプチドゲルの上で神経様細胞を培養し、神経突起を伸ばした状態に誘導することができています(図1)。
この自己組織化ペプチドでつくる細胞足場材料上で、さまざまな組織に分化する幹細胞の培養も行っています。

図1

2. 細胞膜透過能をもったα-ヘリックスペプチドの創製とドラッグデリバリー応用

 細胞は中と外を区別する膜(細胞膜)につつまれており、栄養素などの細胞に必要なもの以外の分子は通常この膜を通過できません。近年、設計次第で細胞膜を透過するペプチドをつくることが可能であることがわかってきました。これまでにα-ヘリックス構造をつくるペプチド配列中のアミノ酸をさまざまに置換したペプチドライブラリを設計し、その中から細胞膜を透過して自発的に細胞の中に入るペプチドを見つけています(図2)。
中でも、正常な細胞とがん細胞を見分けてがん細胞に選択的に入るペプチドは将来的に抗がん剤などの薬物を効率よく送達するドラッグデリバリーにおいて有効です。
実際に、このようながん細胞選択性をもった膜透過ペプチドと金の微小な粒子(ナノ粒子)を組み合わせて、金ナノ粒子表面に抗がん剤をもたせて、がん細胞へのデリバリーなどを行っています(図2)。
また、より高いがん細胞選択性や膜透過性をもったペプチドを開発する研究も進めています。

図2

3. 糖ペプチドライブラリを利用したレクチン結合性リガンドとレクチン検出プローブの創製

 糖はペプチド・タンパク質と並んで生命現象を支える重要な分子です。栄養源としてのグルコースなどの糖分子の他にも、多数の糖が複雑につながった糖鎖が細胞やウイルス・細菌の表面に存在しています。
細胞の表面にはこれらの糖鎖を結合するレクチンと呼ばれるタンパク質も存在しており、ウイルス・細菌の感染やがんの転移といった疾病と深く関わっています。そこで、糖とペプチドを組み合わせた分子「糖ペプチド」を設計してレクチンを検出する研究を行っています。糖とペプチドを組み合わせることで、複雑な糖鎖と同等かそれ以上の能力を発揮してレクチンと結合すると期待しています。これまでに、遺伝子工学的手法(ファージライブラリ)と有機化学的手法(糖修飾)を組み合わせることにより糖ペプチドライブラリを構築し、その中からレクチンに選択的かつ強く結合する優れた糖ペプチドリガンドの獲得に成功しています(図3)。
また、糖ペプチドを金ナノ粒子の上に多数集積したナノ粒子複合体は、レクチンと結合して凝集体を形成します。ステンドグラスの鮮やかな赤色のもととして知られている金ナノ粒子の溶液は、凝集前は赤色ですが凝集すると青色になります。つまり、レクチンを金ナノ粒子溶液の色の変化として検出することが可能です。
糖ペプチドを利用することで高感度の検出が可能になりました(図3)。

図3


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