研究TOPICS  - 顔 - 生命理工学研究科より

Vol.1 木村 宏 教授 

生体システム専攻 / 生命科学科 生体機構コース

着任のご挨拶

木村宏教授2014年7月1日に生体システム専攻に着任しました。よろしくお願い致します。
出身は北海道で、北海道大学で博士(理学)の学位を取得するまで、北の果てから日本や世界を眺めてきました。その後、それまでの地元志向から一転し、オックスフォード大学(博士研究員)、東京医科歯科大学(助教授)、京都大学(特任教授)、大阪大学(准教授)と、様々な大学・研究機関で研究・教育を行ってきました。
今回、私にとっての新天地である東工大に着任し、新鮮な気持ちで研究と教育に励みたいと思っています。特に、2002年にイギリスから帰国して以来、研究所や独立大学院などに所属したため学部の教育にはあまり携わっていなかったのですが、生命理工では学部学生の教育にも関わることになり「鉄を熱いうちに打つ」のを楽しみにしています。
研究に関しては、新規技術を開発しながら、一貫して細胞核・染色体・クロマチンの機能と構造に関する研究を行ってきました。最近は、独自の手法を用いて、エピジェネティクスや転写の制御におけるヒストン修飾の役割についての生細胞での解析に力を入れています。また、これまでの培養細胞レベルの解析から、ようやく個体レベルでの解析も出来そうになってきました。個体の発生過程において、個々の細胞で遺伝子発現が、いつ、どこで、どのように起こるのかを直接視ていくことで、遺伝子発現制御の基本原理を理解することを目標としています。
研究対象は基礎中の基礎ですが、より一般的であるほど、他の分野や応用研究への貢献も大きいと考えています。これまで国内外の研究者と多くの共同研究を行ってきましたが、東工大内でも、分野を超えた共同研究により新しい発見が出来ることを期待しています。


成果紹介

Regulation of RNA polymerase II activation by histone acetylation in single living cells
(Nature, 516, 272–275, 2014)

研究内容図真核生物の遺伝子発現制御において、RNAポリメラーゼIIによる転写の活性化にヒストンH3のアセチル化修飾が働くことが知られています。しかし、実際に細胞内でアセチル化が転写のどのステップに働くのかについての詳細は分かっていませんでした。我々は、これまで翻訳後修飾特異的抗体を改変した蛍光プローブを用いて、生細胞や生体内でヒストン修飾の動態を計測する方法を開発してきました。今回、その方法を活性化型RNAポリメラーゼIIの指標となるリン酸化修飾に適用し、RNAポリメラーゼIIによる転写の開始と伸長を生細胞で追跡することが可能になりました。ステロイドホルモンにより発現が誘導される遺伝子の活性化に伴うヒストン修飾とRNAポリメラーゼIIの動態を生細胞で計測したのち、定量解析と数理モデルへのフィッティングを行いました。その結果、ヒストンH3の27番目のリジン残基のアセチル化は、「転写因子のクロマチンへの結合」と「転写開始から伸長への移行」の両方を促進することが明らかになりました。また、この生細胞解析の結果は、クロマチン免疫沈降を用いたエピゲノム解析の結果とも一致しました。以上の結果から、今回着目したステロイドホルモン誘導性遺伝子は、あらかじめアセチル化された状態にあり、ホルモンに応答してすみやかに転写が起こるように準備された状態であると考えられました。今後、メチル化などの抑制的な修飾を持つ遺伝子が、発生や分化の過程でどのように活性化するのかを解明していく必要があると考えています。


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